物流業界「2024年問題」の対策の1つとして、中・大型トラック(車両総重量8トン以上)の高速道路での最高速度が2024年4月までに80キロから90キロに引き上げる事に決まりました。(以下参照)
中・大型トラック(8トン以上)の高速道路の最高速度引き上げを検討してきた警察庁の有識者検討会は22日、最終会合を開き、現行の時速80キロから90キロへの引き上げが可能との結論に至った。トレーラーは現状維持となった。
速度引き上げは、トラック運転手不足が懸念される物流業界の「2024年問題」対策として、政府がまとめた施策の一つ。同庁は道交法の施行令を速やかに改正し、来年4月までに法定速度を引き上げる。
最高速度を引き上げる事に対しての一番の目的は、目的地までの運転時間を少なくしてトラックドライバーの労働時間を減らす事です。
しかしながら現役トラックドライバーである私の視点から見ると「中・大型トラック(車両総重量8トン以上)の高速道路での最高速度を80キロから90キロに引き上げ」という施策はほぼ意味が無いと感じています。
当初予定の最高速度を100キロまでとしたならもう少し意味があったかもしれませんが、ハッキリ言って90キロまでならほぼ意味が無いと考えられます。
本記事では物流についてあまり詳しくない方にも分かる様になるべく分かりやすく説明していきます。
これからドライバー目線で最高速度引き上げに対して何故意味が無いか理由を解説していきますので物流業界に興味がある方は参考にして下さい。
大型トラックの最高速度の現状について
まずは大型トラックの最高速度の現状について触れていきます。
実を言うと高速道路で大型トラックの最高速度が80キロでも実際のところ多くのトラックは90キロ位で走っているので、最高速度を90キロに引き上げたとしても多くの運送会社では、特に会社の方針を変える事無く現状を維持する事が考えられます。
理由を具体的に説明していきます。
大型トラックはリミッターが付いているけど最高速度は90キロ位
基本的に大型トラックには速度制限装置(リミッター)が付いていてあまり速度を出せない様になっています。
高速道路での最高速度は80キロですが、リミッターは車種によって多少は差がありますが大体90キロ前後のスピードまで出る様になっています。
では最高速度が90キロに引き上げた場合、企業側の視点から見るとどうでしょうか?
90キロ前後まで出る車両に対してわざわざ経費をかけてリミッターを解除するのでしょうか?
またトラックにはデジタコ(運転の記録装置)が付いていてデジタコは速度オーバーするとドライバーにずっと音声で「速度オーバーです」等と警告し続けます。(90キロ以上になると警告を発する様に設定されている場合が多い)
つまりリミッターを解除してもデジタコが警告し続けるので、最高速度を引き上げるならばリミッター解除と同時にデジタコを法改正に対応した物に買い替えなければいけなくなります。(デジタコは基本的に速度設定を変更できない仕様になっています)
果たしてたった10キロの速度引き上げに対して運送(物流)会社はリミッター解除とデジタコの買い替えをするでしょうか?
最高速度を90キロとすると実質的に100キロ近くまでは走れますが(10キロ以内の速度オーバーなら警察は取り締まる事がほぼ無いから)、わざわざ10キロ速度を上げる為にリミッターの解除やデジタコの買い替えをトラックの稼働を止めてまで1台1台に手を加える事が私には想像出来ません。
おそらく多くの運送会社は据え置く所が多いでしょう。
リミッターが装着された事によって事故が減った
また大型トラックにリミッターが装着された事によって企業側にとっては事故が減ったのでわざわざリスクを高くする事は考えづらくなります。
大型トラックにリミッターを装着する事が義務化されたのは2003年(平成15年)9月からです。
義務化されてからは上のグラフを見れば分かりますが事故件数が右肩下がりになり、2003年から比べると大体半減しています。
運送会社にとっては大型トラックのリミッター装着が義務化された事によって事故が減って、かつ燃費も良くなったというメリットもあるのでわざわざリスクが上がる事はしない会社が多いでしょう。
4tトラックでも90キロまでとしている会社も多い
高速道路の最高速度に対して注目して頂きたい点は4トントラックについてです。
物流業界の4トントラックでよく使用されているのは下画像の様な箱型トラックです。
4トントラック(車両総重量が8t未満のトラック)の最高速度は元々100キロですが、実を言うと4トントラックでも社速(会社内で決められた制限速度)として90キロまでにしている会社は少なくありません。
実際に私が働いている会社は4トントラックでも高速道路の最高速度を90キロまでとしているので、当然90キロを超えてくるとデジタコが警告し続けます。
つまり元々100キロまで出して良い事になっている4トントラックですら、事故を減らす事、燃費を良くする事を考えて社速を90キロ位までとしている会社は結構あるのが現状です。
なので4トントラックに関してもわざわざ最高速度を引き上げずに据え置く会社も多いでしょう。
8トン以上の中型トラックの最高速度を引き上げてもほぼ意味無し
最高速度の引き上げは大型トラックだけでなく、8トン以上の中型トラックも対象です。
車両総重量8トン以上の中型トラックとは簡単に言うと、先述した4トントラック位の大きさで最大積載量が6.5t未満のトラックです。つまり4トントラックの強化版だと思って下さい。
俗に「増トン車」あるいは「増トントラック」と呼ばれています。
増トントラックも最高速度が90キロに引き上げられますが、以下の理由からほぼ意味が無いと考えられます。
よって車両総重量8トン以上の中型トラックの最高速度が90キロに引き上げられとしてもあまり意味が無い事が考えられます。
トレーラーは据え置きだから全く意味が無い
トレーラーに関しては最高速度が80キロのままなのでトレーラードライバーにとっては全く労働時間短縮にはなりません。
ちなみにトラックの種類を普通、中型、大型、トレーラーで分類した場合、拘束時間が15時間超(16時間超も含む)の割合が最も多いのは大型で、次に多いのはトレーラーです。(以下参照)
つまり拘束時間が2番目に多い車種のトレーラードライバーに対しては全く対策されていない事になります。
※拘束時間が15時間超ならほぼ長距離ドライバーに該当するのでほぼ高速道路を使用していると考えられます
もちろんトレーラーによるノロノロ追い越しも減らないでしょう。
最高速度の引き上げはただの「やってますアピール?」
元々最高速度の引き上げは100キロで検討されていましたが何故90キロに落ち着いたかのかを考察します。
おそらく上記の様な流れで90キロに落ち着いたと考えられます。
実際に90キロにしておけば現場側(運送会社)は本記事で挙げた理由から何もしないで据え置く会社が多いでしょうし、政府側にとっては、80キロから90キロに変更した事により「対策は行った」という大義名分が立つ訳です。
ただし現場側からの人間からすれば、2024年問題の本質を捉えずにただの「やってますアピール」にしかなっていません。
まとめ
では最後にポイントをまとめます。
結局のところ政府が行った事(規制緩和、運転免許の法改正、休憩時間の確保、労働時間の削減等)に対して物流業界が混乱しているという事実は否めません。
もっと現場を知った上での政策を行ってもらいたいものです!